以下は、過去(医薬品情報学寄附講座、育薬学寄附講座)の内容です。今後、新しい内容に変更予定です。
直近10年ほどで、日本政府が主導する医療技術評価では薬価(医薬品の価格)や治験における有効性を基に医薬品の費用対効果が検討されるようになりつつあるが、この評価では実際の医療現場における医薬品の使い勝手や介護コスト、患者・家族・その他専門職にとっての手間や機会損失といった医薬品の持つ様々な価値が考慮できておらず、社会に与える価値を正しく測る上では不十分である。
そこで本研究では、それら広範な価値を網羅的に検討できる新しい価値評価手法を構築し、必要なパラメータ情報の新規創出と合わせて、製品間で社会に対する価値・コストがどのように異なるかを明らかにする。
最終的には、本手法と評価結果が公的機関や民間企業に活用されることでより効率的な社会保障を実現すると同時に、製薬企業が真に社会にとって良い薬を開発しやすい世の中を目指している。
薬局はプライマリケアにおいて、処方箋調剤を通じて薬物治療向上に寄与するとともに、禁煙プログラムなど、様々なヘルスプロモーション介入も担う。プライマリケアにおける薬局の役割が大きくなっている一方、その役割や活用が社会全体で明確かつ一般的になっているとは言い難い。
その原因の1つに、地域ニーズ等に応じた実践の多様性が挙げられる。薬局の機能やサービスを適切に捉える量的指標がなく、実態を適切に捉えられていない可能性がある。
本研究の目的は、薬局に期待されるニーズや提供されるサービスを把握し、患者の治療・健康向上にどう寄与しているかについて、実践の多様性を考慮し、質的方法により明らかにすることである。
これにより社会全体に対して薬局がもたらしうる価値が明確化し、さらなる活用が広がっていくこと、結果としてプライマリケア全体の効率や質の向上に寄与することが期待される。
薬局プレアボイドとは、薬剤師が患者との対話や薬歴などから患者情報を的確に把握し、副作用の回避や精神的不安の軽減を図る取り組みである。
近年、医薬分業の進展により薬剤師の対人業務の重要性が高まる中、業務の質を向上させるためには、患者の安全性に直結する薬局プレアボイドの活用が効果的であると考えられる。
しかし、これらの事例は膨大かつ多様であるにもかかわらず、体系的な分析がなされておらず、薬剤師の教育や研修に十分に活用されていないのが現状である。
そこで本研究の目的は、薬局プレアボイドの事例に対して機械学習を用いた分類モデルを構築し、効率的かつ客観的な分析を行うことである。
この分析結果をもとに、薬剤師教育への活用や、対人業務における対応力の向上に役立てることを目指す。
薬局プレアボイドとは、薬剤師が薬学的視点で患者の薬物治療に介入し、副作用や相互作用、治療効果の不十分さを未然に防ぐ取り組みである。医薬分業の進展に伴い薬剤師の対人業務の重要性が増す中、この介入は患者の安全性向上と医療費の抑制という社会的意義が大きいと期待されている。
しかしその経済的価値は、多様な介入事例が存在するにもかかわらず十分には評価・可視化されていない。本研究では、薬局での介入事例を機械学習による分類モデルを用いて体系的に解析し、各介入カテゴリの経済的価値を定量化することを目的としている。
これにより、薬剤師に対する理解と信頼が社会レベルで深まり、その職能が正当に評価されるための土壌構築に貢献できると考える。
医薬品による治療において、副作用の兆候を早期に発見し、重篤化を防ぐことは極めて重要である。現状、副作用の発見は、患者との対話における薬剤師の経験や洞察力に頼ることが多い。
しかし、患者が訴える「なんとなく調子が悪い」「食欲がない」といった何気ない言葉の中に副作用の重要なサインが隠れている可能性がありながらも、それを客観的に評価する指標がないため、見過ごされてしまう危険性があった。
そこで本研究の目的は、患者が訴える自覚症状の言葉と、実際に発生している副作用との関連性を大規模なデータを用いて解析し、特定の言葉から副作用の可能性を客観的な数値として示す「副作用推測指標値」を考案することである。
この指標が確立されることで、薬剤師は経験の多寡によらず、患者の言葉から副作用のリスクを早期に察知し、適切な対応をとることが可能になる。将来的には、本指標を薬局の業務システムに組み込むことで、薬剤師の臨床判断を支援し、医薬品のより安全な使用に貢献することを目指す。
目的医薬品の取り違えは調剤に関するヒヤリ・ハット事例のなかでも特に多く、2023年に報告された19,373件の事例の内7,353件が薬剤取り違え(規格・剤形間違いを含む)によるものである。
取り違えが起こる要因として、環境要因、人的要因、物的要因があるが、このうち物的要因の一つとして薬剤同士の類似があげられる。薬剤同士の類似による取り違えは医薬品の一般名や販売名およびPTPシート等の外観が似ていることで誤認が発生し、ヒドロコルチゾン製剤である「サクシゾン」と筋弛緩剤「サクシン注射液」を誤って投与し、死亡事故が発生した例など、重大な医療事故の発生要因となることもある。類似による取り違えの対策として、厚生労働省による注意喚起や医薬品名の名称変更、PTPシート等の内袋への販売名、規格・含量を明記する指導や取り違え防止のための包装変更など対策が取られている。
しかし名称類似と外観類似を定量的に評価する指標は存在しておらず、新規医薬品が既存の医薬品と外観が似てしまう例を十分に避けることはできない。
そこで、本研究では取り違え要因となり得る医薬品情報を検討し、それら要素を含んだ統合的医薬品類似度を構築することを目的とする。これにより、取り違えが生じる前の段階で取り違えリスクがある組み合わせを発見し、予測的に対策することが可能になることが期待される。