研究内容紹介

研究テーマ

育薬学教室(育薬学寄付講座)は、2020.4.1より第4期となりました。第4期における主な研究テーマは以下のとおりです。

    1. 高効率な医薬品市販後情報収集システムの構築と持続的推進
    2. 医薬品に関連するインシデント・アクシデントの予測と製品進化に関する育薬研究
    3. 一般市民を対象とした医薬品市販後情報収集システムの構築
    4. 医療・介護関係者、学生、一般市民に対する医薬品適正使用・育薬のための教育・研修システムの構築

研究テーマの詳細は、現在、準備中です。以下に、第3期までの主な研究テーマを示します。

育薬学講座では、医薬品・健康食品情報の収集、評価、再構築、規格化・標準化、電子化、提供・提案などに取り組んでいます。また、「医薬品適正使用」に必要な新規医薬品情報を非臨床試験・臨床試験に基づいて創製する、いわゆる「育薬研究」も展開しています。

医薬品/健康食品の有用性・安全性情報ネットワークの構築

臨床事例を活用した医療従事者間情報交換・研修システムの構築と展開

薬剤師や医師がその資質を高め、医薬品の不適正な使用・投薬ミスを防止するためには、実際の臨床事例、すなわちアクシデントやヒヤリハット事例、投薬ミスの阻止や薬物治療の適正化に成功した事例、などの経験を積むことが有用であると考えられます。しかし、実際にそのような事例に遭遇することは少なく、遭遇しても何を学ぶべきかわからずに資質向上に活かされないケースも多いのが現状です。

そこで我々は、そのような構造的問題点を解決すべく、薬剤師から臨床現場で起きたヒヤリハット事例や諸問題を効率的に収集し、それらに解説や解析を付することで研修用事例に加工し、医療現場にフィードバックすることで、貴重な臨床事例を研修の観点から共有するシステム(「薬剤師間情報交換・研修システム」)を構築・展開し、その有用性を評価してきました(澤田が九州大学に在職中の 2000 年に本システムを立ち上げ、その後 2007 年に運営を NPO 法人 DLM センター(本研究科教員有志により設立)に移管しました)。本システムの登録者数は 10,000 名(全国薬剤師の 17 名に 1 名)に達しています(平成 20 年末現在)。これまでに投稿事例から創製した教育用事例は 400 事例を超えており、現在事例のライブラリー化が進行中です。これらの教育用事例を薬剤師研修プログラムの教材としても活用し、会場型と e-learning 型の研修システムとして実施し、その効果を検証しています。平成 19 年度からは、離退職薬剤師の再教育プログラムの研究開発にもあたっています(H19 文科省社会人学び直しニーズ推進プログラム)。

さらに当講座では、薬物治療の適正化を推進する上で医師への情報提供が不可欠であると考え、薬剤師教育用教材として蓄積された薬物治療に関連した臨床事例を、医師向けに加工し、インターネットを介して登録医師に向けて情報提供するシステムを 2005 年秋に立ち上げました(登録医師数:約 6,000 名、平成 20 年末現在)(2007 年に運営を NPO 法人 DLM センターに移管しました)。

本システムでは、現場から市販後の医薬品情報や現場のニーズを掘り起こすことも可能となります。薬学研究のシーズを現場からとらえる仕組みとして、育薬研究・創薬研究への橋渡しをするシステムとしても今後発展させていきたいと思います。


健康食品の有用性・安全性情報ネットワークの構築と展開

昨今の健康ニーズの高まりを背景として、健康市場は拡大しています。一方で、健康食品によるトラブルも後を絶ちません。我々がこれまで医療現場で捉えてきた諸問題のなかでも健康食品の不適正使用や医薬品との飲み合わせによる問題が散見され、今後も健康市場の拡大によりこういった問題はさらに増加していくことが懸念されます。

当講座では、医療・消費現場から健康食品の市販後情報を掘り起こし、それらの粗情報から解析・評価、非臨床・臨床試験を経て新規情報を創製し、医療・消費現場にフィードバックする統合的なネットワークの構築を進めています。さらに、医師・薬剤師・消費者を対象としたアンケート調査や医療従事者・消費者が一堂に会するワークショップを実施することによって、医療従事者と消費者の連携推進や市販後情報を自らとらえる意識向上のための方法論についても検討し、臨床現場での医療従事者、消費者を対象とした情報収集・提供に関する問題点を明らかにし、構築するシステムの効果を最大限に引き出すネットワーク作りを目指しています。

新規医薬品情報を創製するための研究

市販後の医薬品であっても、現存する医薬品情報では医療現場から収集されたシーズ、ニーズに答えられないことがしばしばあります。当講座では、実験学的手法をはじめ、さまざまなアプローチ法により、新規エビデンスの創製に向けた研究を推進しています。

ヒト胎盤組織を用いた薬物の胎児移行性及び胎児毒性の定量的評価

現在臨床上使用されている薬物のほとんどは、妊婦に投与した場合、胎児に対する安全性のデータはなく、安全性は保証されていません。そこで我々は、ヒト胎盤を活用し、さまざまな実験系における薬物の輸送実験を行うことで、薬物の胎児移行性を in vitro において効率的かつ定量的に推測するための方法論を構築し、それを評価することを目的とした研究を展開しています。これまでに、ヒト胎盤を用いた灌流実験の結果に、新たに構築した薬物動態学的モデルを適用することで、薬物の経胎盤透過における素過程を定量的に評価できることを示してきました。また、胎盤における薬物輸送担体の局在を確認したり、胎盤トロホブラスト細胞の微絨毛膜(胎盤関門の母体血側に相当)及び基底膜(胎児血側に相当)を精製し膜小胞を調製し、それらを用いてさまざまな薬物の輸送特性を検討してきました。

薬物輸送担体や代謝酵素の阻害を介した消化管における薬物間相互作用の検討

消化管は経口投与された薬物や飲食物に対する最初のバリアであり、そこでは、薬物代謝酵素として CYP3A やスルホトランスフェラーゼ(SULTs)などが、また薬物を排出方向に輸送する各種 ABC トランスポータ(P-glycoprotein, MRPs, BCRP 等)や、吸収に寄与するトランスポータ(OATPs, PEPTs 等)などが発現しています。これまで私たちは、消化管における相互作用として、特にグレープフルーツと医薬品の相互作用による血中濃度の上昇という視点から研究を行ってきました。しかし近年では、グレープフルーツジュースの併用により薬物の血中濃度が低下する例や、ジュースが CYP 以外のメカニズムを介して血中濃度を上昇させる可能性が指摘されるようになってきました。このため現在我々は、吸収方向に機能する薬物輸送担体である OATPs に対するジュース成分の影響や、SULTs に対する飲食物の阻害作用について検討を進めています。最近では、グレープフルーツジュースが OATP-B の機能を阻害することや、柑橘ジュースや茶飲料が SULTs を介したリトドリンの代謝を強力に阻害することなどを見出し、発表しています。